(2019/4/26追記:ITPのバージョンアップ情報が公開されました。詳しくはこちらのITPの解説記事をご確認ください)

iOS12.2およびsafari12.1が2019年3月26日付でリリースとなり、ITP2.1による実影響が出始めて参りました。

本記事では、ITPとは一体何かといった疑問から、実際の影響、広告媒体やアクセス解析ツールやASP各社の対応状況、計測漏れCV数の推定方法まで幅広く解説して参ります。

なお、ITP2.1に関する公式情報は以下の通りですが、英語表記かつ表現も難解であるため、なるべく平易な表現に改めつつ、解説いたします。

参考:ITP2.1に関する公式情報(英語サイト)|WebKit

ITP(Inteligent Tracking Prevention)とは

そもそもITP(Intelligent Tracking Prevention)とは、2017年9月に実装されたsafariブラウザ上でのトラッキング防止機能のことです。

ITP1.0当時の機能(当時は単にITPと呼ばれていましたが)とWEBマーケティング領域への影響は以下の通りです。

ITP1.0の機能

  • クロスサイトトラッキングのCookie(3rd party Cookie)を24時間で削除

ITP1.0によるWEBマーケ領域への影響

  • 広告クリックから(正確には最後のインタラクションから)24時間以上経過後の3rd party Cookieを利用したCV計測やアクセス解析は不可(1st party Cookieを利用した計測は可)
  • サイト来訪から24時間以上経過後のリターゲティングは不可(リターゲティングには3rd parth Cookieを使用しているため一律不可)

なお、上記ITP1.0は2018年に発表されたITP2.0により機能強化され、WEBマーケティング領域に対する追加影響として以下が発生しました。

ITP2.0の追加機能

  • クロスサイトトラッキングのCookie(3rd party Cookie)を即時削除

ITP2.0によるWEBマーケ領域への追加影響

  • 3rd party Cookieを利用したCV計測やアクセス解析は一律不可(1st party Cookieを利用した計測は可)

今回リリースされたITP2.1は上記ITP2.0の機能がさらに強化されたものとなります。

ITP2.0からITP2.1へのアップデートにより何が変わるか

アップデート内容はいくつか存在しますが、CV計測やアクセス解析領域に影響を与える変更点は以下です。

影響を与える変更点

  • JavaScriptが扱えるCookie(document.cookie)の有効期限は7日となり、8日以降は1st party Cookieであっても削除対象となる

上記をかみ砕いて解釈すると、つまりITP2.1に対応できない場合は以下の影響が発生すると読み取ることができます。

現状のままだと発生する影響

  • 1st party Cookieを利用したCV計測手法であってもdocument.cookieを使用している場合は、広告やアフィリエイトリンクのクリック(最終インタラクション)から8日以上経過後のCV計測は不可となる
  • 1st party Cookieを利用したアクセス計測手法であってもdocument.cookieを使用している場合は、サイト訪問(最終インタラクション)から8日以上経過後のアクセス解析(同一ユーザーとしての識別)は不可となる

一般的な広告媒体(Google広告、Yahooスポンサードサーチ等)、アクセス解析ツール(Google Analytics等)、アフィリエイトASP各社のタグ等はdocument.cookieを使用した1st party Cookieを利用してITP2.0に対応しているものが大多数です。

そのため、今回のITP2.1により最終インタラクションから8日以降の数値計測ができなくなるという影響を受けると考えられます。

ただし、上記はあくまで現状のままだと発生しそうと考えられる影響であり、実際の影響を受ける広告媒体やトラッキングツール各社はITP2.1を受けての何らかの対策を公開する見込みです。

広告媒体のITP2.1対応状況

主要広告媒体各社の対応状況は以下の通りです。

結論から申し上げますと、まだ対応について発表している媒体は存在しません。

ITP2.1の影響による広告経由のCV計測漏れを防ぐためには、後述の解析ツールを挟んで実現するしかないというのが現状です。

Google広告の対応

対応についての発表はありません。

Yahooプロモーション広告の対応

対応についての発表はありません。

Facebook広告の対応

対応についての発表はありません。

アクセス解析ツール会社のITP2.1対応状況

主要アクセス解析ツール各社の対応状況は以下の通りです。

こういった有事の対応で、各社のサポート体制の厚さが見え隠れすることが実感できます。

アドエビスの対応

safari12.2がリリースとなった2019年3月26日に早速ITP2.1への対策を発表しました。

ITP2.1のリリースと合わせて発表できるよう事前準備していたことが想定され、この辺の対応の早さはさすが有料ツールといった印象です。

なお、アドエビスはcookieとlocalStorageの併用方式を採用したようです。

ウェブアンテナとユーザーグラムの対応

ビービットの提供する両ツールも、ITP2.1のリリース当日にいち早く対策を発表しました。

ウェブアンテナはcookieとlocalStorageの併用方式を採用し、ユーザーグラムもcookieとlocalStorageの併用方式を採用したようです。

Google Analyticsの対応

Google AnalyticsはITP2.1に対応しておらず、対応の方針も不明の状態です。

Google Analyticsは基本的には無料ツールということもあり、個人的に過度な要求は差し控えるべきかなとも思ってしまいます。

しかし、Google Analyticsは業界最大手のアクセス解析ツールであり、Google Analyticsの対応が今後の業界標準となるであろうことも加味すると、その対応方針は非常に気になるところです。

ひとまずは、今後の発表を待ちましょう。

ADPLANの対応

オプトの提供する広告効果測定ツールADPLANは2019年4月中旬にITP2.1への対応を予定している旨について発表しました。

ADPLANもcookieとlocalStorageの併用方式を採用したようです。

アフィリエイト会社(ASP)の対応

アフィリエイターにとっては死活問題ともなりかねない主要アフィリエイト会社(ASP)の対応は以下の通りです。

A8の対応

2019年3月28日に独自の新広告効果計測システム(特許出願中)により対応を進めている旨についてのニュースがありました。

なお、上記ニュースを見る限り、この手法ではlocalStorageではなくサーバーサイドで1st party cookieを発行する手法で対応しているように見受けられます。

ただし、A8の対応として公式サイトより提供されている情報は「近日中に各広告においてのクリックから7日以内の成果発生割合のデータを提供する予定」に留まっており、実際にこの機能を活用してITP2.1に対応している案件がどの程度存在するのかは定かではありません。

アフィリコード・システムの対応

リーフワークスの提供するアフィリエイト広告配信システムである「アフィリコード・システム」は2019年4月8日付でITP2.1に対応した旨について発表しました。

こちらのサービスは、自社運営型のアフィリエイトシステムとアフィリエイトASP構築サービスを兼ね備えたシステムであり、一般的なASPとは少々異なります。

ITP2.1によるアフィリエイター離れを防ぐために、広告主がこちらのサービスを利用してITP2.1に対応した自社運営型のASPに切り替える等といった使い方が想定されます。

また、こちらのサービスではlocalStrageではなく、広告サイト側サーバーで1st party cookieを発行する方式で対応している点も特徴的です。

Apple社は今後localStorageによるITP対応を無効化する可能性がある

ここまで、各社の対応はlocalStorageを用いたものが主流であることをお伝えしてきましたが、実はApple社のエンジニアでありsafariのITP開発に関わっているJohn Wilander氏はtwitter上で以下の通り、今後localStorage等を含むDOM StorageによるITP対応も無効化する可能性がある事について示唆しています。

つまり、ITPは今後も当面その形を変えながら業界各所に猛威を振るうであろうことが想定されます。

ITP2.1の影響は今後じわじわ広がる

2019年3月26日にITP2.1がリリースされましたが、実際の影響はすぐには出てきません。

具体的にはリリースから8日後の2019年4月3日付近から影響が出始めています。

また、iOS12.2もリリース直後から爆発的に普及するわけではなく、各自端末のiOSバージョンアップにつれ普及すると共に、ITP2.1の影響も徐々に拡大します。

時間をかけながらボディーブローのようにじわじわ効いてくる(ちょっと表現に悪意があるかもしれませんが)、それがITPなのです。

ITP2.1の影響で発生した計測漏れCV数の推定方法

技術的に対応できれば、一時的あるにせよCVの計測漏れを防ぐことは可能です。

ただ、ITPはイタチごっこであり今後も続くであろうことや、諸々の事情で技術的な対応ができないケースを考えると、その他解決方法を持っておくことも重要です。

結論から言うと、ITPの影響を受けたとしても以下の手順で計測漏れ数CV数を推定することは可能です。

例として、ITP2.1の影響を受けつつ、広告やアフィリエイトリンクをクリックしてから8~30日経過後に発生した計測漏れCV数を推定してみましょう。

ポイントはITPの影響を受けないAndroid端末のCV発生傾向を活用することです。

計測漏れCV数の推定方法

  1. Android端末でクリックから7日以内に発生したCV数(Aとする)をメモる
  2. Android端末でクリックから8~30日以内に発生したCV数(Bとする)をメモる
  3. iOS端末でクリックから7日以内に発生したCV数(Cとする)をメモる
  4. C×(B÷A)を計算することでiOS端末でクリックから8~30日以内に発生したCV数が推定できる

仮にA=10、B=2、C=20だとすれば、計測漏れ数は20×(2÷10)で4件と推定できるわけです。

言われてみれば単純な話だと思いませんか?

「クリックからの経過日数に応じてに発生するCV」の減衰傾向がOSによって変動するなんてことは通常ありません。

ということは、上記計算でCV計測漏れ数は十分推定可能であるわけです。

もちろん、若干の気持ち悪さは残りますが、厳密性を求めなければ推定は可能だと言えるでしょう。

また、OS単位ではなくブラウザ単位やブラウザバージョン単位で計算すると更に数値は正確になるでしょう。

なお、この計算を行う場合はCVの数がある程度多くないと統計的な有意性が担保できませんが、逆に言えばCV数が多い場合は推定値はより正確になります。

媒体を使用した広告配信の場合、大抵のケースにおいてはCVが発生したOSや、広告クリック日時や、CV発生日時のレポートを出力できるため、上記の推定は可能です。

アフィリエイトの場合、これらレポートを出力可能であるかはASP次第です。

ただし、ASP内部ではこういったデータを保持しているはずです。

そのためASPがやろう思えば、ITPにより発生した計測漏れCV数を推定することは可能であるはずです。

推定CVに対して報酬を払ってくれるASPは現状存在しませんが、だからこそこういった手法を取り入れて推定CVに対しても報酬を払ってくれるASPが現れれば、他ASPとの差別化ができるのではないでしょうか。

「ITPに怯える必要のないASP!」との謳い文句でいかがでしょう?

なんて勝手に妄想してしまいました。

まとめ

ITPの導入当時、WEBマーケティング業界には激震が走りました。

WEBマーケッターは広告効果測定、アクセス解析、リターゲティング広告の実施等に苦心しました。

中にはCV計測基盤が崩れることで、一時的もしくは長期に渡って損益を被ったか人も多いかと思います。

そんな中、各社がITP対策に翻弄されつつも、機能アップデートに合わせて対応を続けているというのが現状です。

このままAppleとのせめぎ合いが続き、ITP3.0、ITP4.0と順次機能がアップデートされていくのでしょうか。

なんて考えていると、ちょっと頭が痛くなってきます。

ITP2.1への対策として注目が集まっているlocalStrageはAmazonの「最近見た商品」表示等でも活用されています。

つまり、今後もしlocalStrageが使用できなくなるとこういったサービスにまで影響が出てきます。

Apple社としても、おそらくこの辺のさじ加減は難しいと考えていることでしょう。

とは言え、この流れは仕方のないことです。

ITPの機能を求めるユーザーも存在するという事実を受け止めつつ、最新情報を常にキャッチアップしていきましょう。